干ばつ常襲地帯において栽培作物多様化を阻害する要因の解明
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 24K15449
研究期間 2024年4月から2028年3月
本研究の着想となったこれまでの活動
研究代表者と研究協力者は2007年より同研究対象地において共同研究を実施してきた。当該地域で気候変動対応型作物としてソルガムを軸とした食と栄養の安全保障に関する研究を実施しており、ソルガム在来種の品種特性を明らかにし、ソルガムの主食利用の可能性を評価し、トウモロコシのモノカルチャーが行われている当該地域でのソルガム栽培再興の可能性を明らかにし、ソルガムの普及試行を実践し、それらの内容を学術論文として公表してきた1)-5)。また、未発表であるが、ソルガム普及の結果から、普及の定着には地形条件と土壌といった自然環境要因に加えて、村落の住居分布形態(散村か集村か)、市場へのアクセスの良さ、配偶者の所有する耕地の有無、所有する耕地面積が定着を決定する要因となっていることが明らかになってきている。さらに、ソルガムを普及してから既に4年が経過しており、そのころと比較して、ザンビア国内における作物多様化への政策が高まっており、ソルガムだけでなくその他の作物(ラッカセイ、ササゲ、ヒマワリ、サツマイモ、ダイズ)も選択肢として検討する必要があると考え、世帯構成員が必要とする栽培作物をオンデマンドで普及することがより栽培作物多様化を促進し、農民の食と栄養の改善による食料安全保障に資すると着想するに至った。オンデマンドな作物の種子配布を強調するのは、昨年度、政府によって協同組合を通じてトウモロコシの種子と化学肥料を購入した世帯に、おまけとしてその他の作物の種子が配布された。当該地域では、ラッカセイとダイズが配布されたが、ダイズを栽培したことの無いこの地域では受領しても播種しない世帯、種子を販売した世帯がいたことから、各世帯が望む作物の配布が重要であるとの考えに至った。
2024(R6)年度の活動
1). 種子普及前作付け状況把握のためのベースライン調査
栽培作物多様化のための種子普及前の作付け状況を把握するための聞き取り調査を2サイト(全259世帯)において実施した。サイトXでは全世帯の64%がトウモロコシの単一栽培であったのに対して、サイトYは15%であった。このことから、サイトYの方が栽培作物の多様化が進んでいることがわかった。

写真1. 調査票について理解を深める調査員ら

写真2-1). 調査村村長を表敬訪問

写真2-2). 活動内容を説明
2). 潜在的栽培作物嗜好の解明
潜在的な栽培作物嗜好を明らかにするためにベストワーストスケーリングを用いた聞き取り調査を2サイトにおいて実施した。ベストワーストスケーリングに用いた作物種はキャッサバ、ササゲ、サツマイモ、ソルガム、ダイズ、ヒマワリ、ラッカセイの7種である。主食であるトウモロコシをリストに入れなかったのは、トウモロコシ+αとしての作物を普及することで食料安全保障に資する栽培作物多様化を構築すること、トウモロコシを入れた調査票の試験調査でトウモロコシが優位に1位だったことからその他の栽培作物への嗜好が判然としなかったからである。聞き取りは、世帯主だけでなく配偶者(妻(ら))にも実施した。世帯主だけでなく配偶者に対しても聞き取り調査を実施したのは、配偶者が複数いる場合、配偶者それぞれが世帯主と独立した耕地を所有していることが多く、それらの耕地については世帯主の決定に関係なく栽培作物を選択し栽培することが可能だからである。また、それらの耕地で得られる収入は配偶者が自由に使用することが出来るため、主食となるトウモロコシよりも換金性の高い作物を栽培したいとの要望が強い。しかし、換金性の高い作物の種子を購入するに至らないのが現状で、一度、換金性の高い作物を普及すると定着する可能性が高い。また、同様の理由から独自の裁量で耕作出来るその他の世帯構成員に対しても聞き取り調査を実施した。
サイトXではソルガムの人気が高かったのに対してサイトYではラッカセイの人気が高く、サイト間で栽培作物嗜好が異なることがわかった。

写真 3-1). 配布用種子の計量

サイトX, A村に配布する種子

サイトX,B村に配布する種子

サイトY, C村に配布する種子
写真3-2). 各サイト、各村へ配布する種子:サイト間で配布作物品種が異なることがみてとれる。
3). 栽培作物多様化のための種子配布
ベストワーストスケーリング分析から得られた潜在的栽培作物嗜好に基づき、オンデマンドな栽培作物種子をサイトX、サイトYのそれぞれ98人、94人の農民に配布した。種子受領者の選抜は、ベストワーストスケーリングで少なくとも3回以上(サイトXでは4回)同じ作物種をベストと回答した者のなかから、既に嗜好する潜在的栽培作物を栽培している者を除いた者とした。配布種子量は約2500平方メートルの作付が可能な種子2.5kg(ダイズは10kg)である。2500平方メートル程の作付面積が確保できないと、十分な収穫物を得ることが出来ず、現金化しても満足のいく収入に至らない。

写真 4-1). 調査村農民への研究内容の説明

写真 4-2). 種子配布風景
今後(2025年度以降)の活動予定
種子を配布した世帯において作物栽培に関する聞き取り調査を経時的に(R7年度からR9年度まで)おこなうことで普及作物の定着度を明らかにする。また、種子配布世帯だけでなくその他の世帯についても同様の聞き取り調査を実施することで、域内での普及作物の展開を明らかにする。一方、普及が定着しなかった世帯については、その理由について詳細な聞き取り調査を実施する。
引用文献
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宮㟢英寿, 石本雄大, John BANDA, 梅津千恵子 (2021) 干ばつ常襲地帯における農民によるソルガム種子選好の要因-ザンビア南部州でのソルガム再興に向けて- 開発学研究 32(1) 47-55
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宮㟢英寿,石本雄大,John BANDA,梅津千恵子 (2020) 干ばつ常襲地帯における食料安全保障へのレジリアンス構築-ザンビア南部州でのソルガム再興のための普及試行-,ARDEC 63 26-30
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宮㟢英寿,石本雄大,John BANDA,梅津千恵子 (2020) 食と栄養の安全保障へ向けたザンビアでのソルガムの可能性評価,雑穀研究 35 7-15
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宮㟢英寿,John BANDA,石本雄大,梅津千恵子 (2020) ザンビアにおけるソルガム栽培と主食利用の可能性,雑穀研究 35 1-6
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宮㟢英寿,John BANDA,石本雄大,梅津千恵子 (2018) ザンビアにおける在来ソルガム種の品種間比較,雑穀研究,33 1-8
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